ペンギンが教えてくれた物理のはなし

マグロは時速何キロで泳ぐでしょうか?

僕の記憶では、答えは時速80キロくらい。

子供の頃に見た図鑑に、そう書いてありました。

 

さて、本当の答えは「時速8キロ以下」です。


この十数年で「バイオロギング」と呼ばれる研究手法が生まれています。

小型の発信器のような機器を、動物や魚に取り付けて位置情報を記録。

その後、機器を回収することで生物の行動記録を解析するという手法です。

 

 ペンギンが教えてくれた 物理のはなし (河出ブックス)

そんなバイオロギングを使った研究のお話を、一般の人にも分かりやすくまとめた本が「ペンギンが教えてくれた 物理のはなし」です。

著者は、渡辺佑基さん。バイオロギングの専門家で全世界で研究活動をすることから、「生物学会のインディ・ジョーンズ」呼ばれているそうです。

この本には、渡辺佑基さんの研究の結果や、フィールドワーク中の日常の話などが書かれています。


マグロは時速8キロ以下で泳ぐ話も、この本からの一節。

 

そもそもなぜ「マグロは時速80キロで泳ぐ」と以前は言われていたのでしょうか。

これは50年ほど前の研究結果がそうだったからだそうです。

 

当時の計測方法は、まずはマグロを捕まえて船に引き上げます。

その後、ロープをマグロにつけたら海に返すと、マグロが海中に逃げていくので、ロープが伸びた長さと時間で速度を計測したそうです。

 

そうなると、マグロもあわてて逃げる時のスピードだし、ロープの長さにも限りがあります。

マグロの通常遊泳速度とは、かけ離れてしまいます。

この本によると、バイオロギングを使うと通常遊泳速度が時速8キロを超える魚なんて、まずいないという結果が出ているそうです。

 

ちなみに、エサを獲ろうと頑張る時で時速30キロくらいでは?って感じなんだそうです。

 

といっても、昔の研究方法がずさんだったという話ではなく、当時ではそれが最先端の方法。

渡辺佑基さんも「装置を工夫し遊泳速度を計測した事実は称賛に値する」といい、「間違いが分かった段階で訂正すればいいだけ」としています。それが、研究の発展なのですね。


 マグロの話以外にも、「鵜の飛行の研究にインド洋」「ペンギンの生態を調べに南極」「サメの調査でバハマ」など、世界中の話が沢山掲載されています。

そのどの話にも新しい発見があり、とても面白い。

 

また、生物もそう簡単に測定器を付けさせてくれる訳ではありません。

頑張って取り付けたら、次は測定器の回収もあります。

高価な測定器が回収できずに、大損害を出した話など、苦労話なども興味深かったです。

 

マグロの時速の話以外にも「え?そうなの?」ってことが沢山書かれてて面白いです。

科学、生物学、物理学などが凝縮された「ペンギン物理学」というワクワクが詰め込まれた素敵な本でした。 


情熱大陸 – 渡辺佑基